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2023年 02月 04日
東風解凍(はるかぜ こおりをとく) 2月4日は、二十四節気で最初の節気、『立春』を迎えます。 太陰太陽暦(旧暦)では、新しい一年のスタートとなり、暦の上では春の始まりです。 一昨年は実に124年ぶりに日付が早まって3日でしたが、今年は、昨年同様、例年通りの4日となります。 七十二候の方は1候、立春の初候、『東風解凍(はるかぜ こおりをとく)』の始期です。 東から暖かい春の風が吹いて、冬の間に張りつめていた川や湖の氷を解かし始める頃。 ![]() 『立春』の節気は、先ず、この初候にて、「東風」が春の到来を伝えて「梅」の花の咲く頃合いであることを知らせており、次候は「鶯」、末候では「魚」と、鳥シリーズ・生き物シリーズの一番手が登場して、春を告げる役割を果たしております。 前年の終わりの『小寒』『大寒』においても、人々の春を待つ気持ちを背景にして、春の兆候や気配を感じさせるテーマが取り上げられましたが、『立春』はまさに春の到来であり、寒さはまだまだ続きますが、『立春』を皮切りにして、少しずつ自然や気象に潤いが戻り、動植物の目覚めや芽生えに繋がります。 「春来れば 路傍(ろぼう)の石も 光あり」 高浜虚子 明治・大正・昭和に活躍した俳人、高浜虚子の俳句からは、『立春』が到来して、春の日の光に照らされて、道のほとりの小石も光っているように感じる、というような情景が浮かび上がり、春の訪れを身近に見つけて、素直に喜んでいる気持ちが表されているようです。 『立春』の初侯の「東風」は、自然現象の中で風という「気象」「天候」に係る事象を取り上げて、新たな年の幕開け、新たな季節の始まりを表します。 因みに、七十二候には、春夏秋冬、4つの季節の風が登場しますが、この『立春』と『立秋』、春と秋は風に導かれて、新たな季節が展開します。 「東風」は古来、「こち」と呼ぶのが通例であり、意味としては春風を表す雅語・季語です。 春先に東から吹く柔らかな風ですが、春本番に入ってから穏やかに吹く温暖な風とは異なり、未だ冷たさの残る早春の風です。 「東風」が吹くにしたがって、時に寒気も緩むようになり、朝晩の冷え込みは厳しいものの、日中の日差しに、ほのかな暖かさも感じられるようになってきます。 「東風」は、日本人特有の感性から、その時の時候や各地の風物などと結びついて、様々な趣きを持った呼び方で呼ばれており、「朝東風(あさごち)」「夕東風(ゆうごち)」 「強東風(つよごち)」「荒東風(あらごち)」「梅東風(うめごち)」「桜東風(さくらごち)」「雲雀東風(ひばりごち)」「鰆東風(さわらごち)」「いなだ東風(いなだごち)」など多様です。 「こち」を詠んだ和歌や俳句は数多くありますが、やはり一番馴染みが深い代表的なものは、『拾遺和歌集』『大鏡』から『十訓集』『太平記』へと伝わる菅原道真公の歌です。 「東風(こち)吹かば 匂いおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」 菅原道真 これは、菅原道真公が、政敵の讒訴によって大宰府に左遷されることになり、京の都を去る際、自宅の梅を見ながら詠んだものです。 「東風が吹いたなら、香りをその風に託して遠く離れた私のもとまで届けておくれ、梅の花よ。主人の私がいなくなっても、春を忘れてはいけないよ」という意味です。 この梅に関しては「飛梅(とびうめ)伝説」がありまして、道真公の庭の梅が、主人を慕って京の都から一晩にして道真公の住む屋敷の庭まで飛んできたと伝えられております。 伝説では、道真公は屋敷内の庭木のうち、日頃から大事にしてきた、梅の木・桜の木・松の木との別れをとりわけ惜しんだとのことです。 道真公を慕う庭木たちの中で、桜の木は、主人が遠い所へ往ってしまうことを知って、悲しみのあまり、葉を落とし、遂には枯れてしまったそうです。 梅の木と松の木は、道真公を想う気持ちが募って、空を飛んで追いかけたのですが、松の木の方は、やはり「飛松伝説」と言われておりますが、途中で力尽きてしまい、摂津国八部郡板宿(現在の神戸市須磨区板宿町)近くの丘に降り立ち、この地に根を下ろしたそうです。 そして、梅の木だけが、見事に一夜のうちに主人の暮らす大宰府まで飛んでいき、その地に降り立って道真公の配所に根づいたと伝えられております。 現在、大宰府天満宮の境内、本殿前の左近に植えられており、御神木として知られる梅の木の名称が「飛梅」であり、境内の梅の中で毎年一番に咲き始めるそうです。 梅の花は、万人に愛されていることから、別名の数も多く、「春告草(はるつげぐさ)」などの古名でも呼ばれます。 また、春の花の中で、梅は桃や桜よりも一早く花を咲かせますので、「春の兄」とも呼ばれております。 新年最初の東風を「初東風」と呼びます。 寒い季節が続くものの、北風が時に東風に変わり、梅の花が咲き始める頃合い、春の足音に耳を澄ませ、五感を研ぎ澄ませて微かな春を感じたいものです。 そして「風待草(かぜまちぐさ)」とも呼ばれる梅の花。 梅には花梅と実梅がありますが、いわゆる花梅は、白梅と紅梅を基本にしつつ、薄紅色や枝垂れ・八重などもあり、なかなか品種が豊かであり、香りも品種によって少しずつ異なるようです。 一番早く春を知らせてくれる花梅、そのかわいい花の姿や色艶を愛でて、ほのかな甘い香りも少し嗅いでみて、春の訪れを実感しながら、そして、先行きに希望や明るさを見い出しながら、前向きな気持ちで取り組んでいきたいものです。 最初の候の結びとしては、今年も、古典俳諧の世界から、「梅」に関する数多くの俳句の中から、江戸時代を代表する三大俳人、芭蕉・蕪村・一茶の詠んだものを一句ずつ紹介させていただきます。 「梅が香に のつと日の出る 山路かな」 松尾芭蕉 「梅が香の 立ちのぼりてや 月の暈(かさ)」 与謝蕪村 「梅咲や せうじ(障子)に猫の 影法師」 小林一茶 地球に優しい環境対応印刷を推進する久栄社では、環境問題に取り組む必要性や、自然の尊さをお伝えしたいと考えております。このブログでは、四季折々の風情ある写真にのせて、古代中国で考案された季節の区分である七十二候をお届けする「七十二候だより」を連載しております。お忙しい日々の気分転換に、気象の動きや動植物の変化など、季節の移ろいを身近に感じていただけましたら幸いです。 \\\ ぜひこちらも合わせてご覧ください /// ▼運営会社久栄社のサイトはこちら ▼久栄社のFacebookはこちら ▼お問い合わせフォームはこちら #
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| 2023-02-04 08:01
| 立春(りっしゅん)
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2023年 01月 30日
1月30日は、七十二候は72候、大寒の末候、『鶏始乳(にわとり はじめて とやにつく)』の始期です。 鶏が、日脚の伸びに春の気配を感じて、鳥屋に入って卵を産み始める頃。 ![]() 一年の暦の最後を飾る72番目の候、「晩冬」のクライマックスには、鶏(にわとり)が登場し、直ぐそこにまで近づいて来た春への橋渡しをします。 一日の周期の中で、暗い夜が明けて朝が来るのを知らせる鶏ですが、一年の周期の中では、長い冬の終わりを告げる象徴として重要な役割を果たしております。 これまで、『小寒』と『大寒』では、初候・次候・末候の3候とも、各々共通するテーマを取り扱って呼応しているとして、コントラストを効かせて解説してきました。 『大寒』の節気の三候は、初候は、植物&食物の「款冬(ふき)」、蕗の薹(ふきのとう)が雪の下から顔を出して春の兆しを伝えた後、次候は、自然&水系の「水沢(さわみず)」、沢を流れる水さえも氷となって厚く堅く張りつめ、まさに厳冬・極寒のピークを迎えていることを示し、この末候は、生き物&鳥の「鶏(にわとり)」が登場して、再び微かな春の気配を取り扱う形で、『大寒』全体としての流れやストーリーが完結しています。 末候の主題にフォーカスすると、『小寒』の末候・69候は『雉始雊(きじ はじめてなく)』であり、この72候と共に、日本に生きる身近な鳥が主役となっており、雉から鶏へと、生き物&鳥としての季節の物語を繋いでおり、いずれも地に足をついた姿にて、春の胎動を伝えています。 七十二候のテーマの中で、生き物は24の候に登場しますが、鳥はその中では最も多く、春には、『立春』の「黄鶯(うぐいす)」、『春分』の「雀」、『清明』の「玄鳥(つばめ)」「鴻雁(こうがん)=雁(かり)」、夏は『小暑』の「鷹」、秋では、『白露』の「鶺鴒(せきれい)」「玄鳥」、『寒露』の「鴻雁」、冬は『小寒』の「雉」・『大寒』の「鶏」と合わせて、日本の季節を象徴する8種の鳥たちが10の候に連なります。 「乳」の字は「産む」という意味ですが、「とや(鳥屋)につく」と読ませることで、鶏が産卵のために鶏小屋に入る、すなわち、巣に籠もるという意味を表しています。 『小寒』には、雉の雄が甲高く鳴き始め、雌への求愛の季節を迎えましたが、『大寒』も大詰めを迎え、『立春』を目前にして、雌の鶏が産卵を始める風景に、春の予感が確かに感じ取れるように思います。 鶏は、世界中で飼育されている代表的な家禽であり、養鶏の歴史は古く、紀元前数千年前に遡り、人類が農耕生活を始めて以来の長い歴史と変遷や広がりを持っております。 養鶏の産業化で、今では一年中、卵を食べられますが、もともと自然な状態において、鶏は冬の間は基本的に卵を産まず、産卵期は春から夏にかけてで、日照時間が伸びるに連れて産卵率が上がっていきます。 本来、卵の旬は2~4月くらいであり、寒い時期の卵は、母体の中で時間をかけてゆっくりと成熟していくので栄養価が高いとされます。 寒中に産んだ卵は「寒卵」といいますが、特に大寒の日に産んだ卵は「大寒卵」と呼ばれ、滋養が高いだけでなく、金運や健康運の上がる縁起物とされています。 鶏の起源については、単元説と多元説があり、一般的には、チャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンの研究を踏まえ、単元説、すなわち、東南アジアの密林や竹林に生息している「赤色野鶏(セキショクヤケイ)」を祖先とする説が知られておりますが、遺伝子解析により、「赤色野鶏」に加えて、南西インドに棲む「灰色野鶏(ハイイロヤケイ)」も交雑しているとする多元説も有力であり、家畜化の過程とも相まって重要な研究テーマの一つです。 赤色野鶏は、容姿は鶏に似ておりますが、飛ぶ能力も備えた野鳥です。最初に家禽化された目的は、食用ではなく、朝一番に大きな声で鳴く習性を利用することからで、目覚ましや祭祀に用いられ、また、縄張り意識の強い雄の習性を利用して、闘鶏にも用いられました。 その後、間もなく肉や卵が食用とされるようになり、主目的はそちらに移る中で、にわとりの飼育が世界各地へと時間をかけて広がっていったようです。 インダス文明のモヘンジョ・ダロの遺跡からは、にわとりの粘土像・印章と大腿骨が出土しており、鶏の存在を表す最古の証拠と言われております。 鶏は、その後、3方向に分かれて伝播していったようで、西方は西アジアからギリシアへ、北方からは中国に伝わって東方の韓国・日本へ、南方からはマレー半島からインドネシアや南太平洋へと、東西南北の文明へと食文化も含めて伝播が進んでいきました。 日本には、弥生時代に伝来したとされ、「時告げ鳥」として神聖視されていたようです。呼び名は、鳴き声から「かけ」、あるいは、庭にいるので「にわつとり」と呼んでいたようです。 古事記の天岩戸の神話には鶏の記述があり、天の岩戸に隠れてしまった天照大神を「常世の長鳴き鳥を集めて鳴かしめて」引き出そうとした、とのくだりがあります。 毎日毎日、日の出とともに大きな声で鳴くことで、人々に新しい一日の始まりを知らせてくれる鶏ですが、一年という長い周期の中でも、人間には感じ取れない微妙な変化を察知して、いち早く巣籠もりを始め、冬が最終章を迎え、春の気が近づいてきているのを教えてくれます。 古典俳諧の世界では、江戸時代の三大俳人のひとり、小林一茶が「鶏」を春の情景に詠んでいる俳句がありましたので、紹介します。 「鶏の つゝきとかすや 門の雪」 小林一茶 「鶏の 坐敷を歩く 日永かな」 小林一茶 来たる2月3日は、『立春』の前日の「節分」。一昨年は明治30年(1897年)以来、124年ぶりに2日でしたが、今年は、昨年同様、例年通りの3日です。 「節分」とは、雑節の一つで、もともとは『立春』『立夏』『立秋』『立冬』という各季節の始まりの日の前日を指していますが、季節の変わり目に生じると考えられている邪気(鬼)を追い払う重要な日として、特に『立春』の前日は、新たな年を迎えることから、古代の中国に由来して、平安時代には「追儺(ついな)」や「鬼遣(おにやらい)」と呼ばれる宮中行事が行われるようになりました。 「節分」は、室町時代には更に重要な日と位置付けられるようになり、江戸時代以降は行事や風習として庶民にも定着していきました。 各地で悪霊祓いの行事が執り行われますが、「豆を炒る」=「魔目を射る」ことで「魔滅(まめ)」に通じる豆撒きを行うなどして、邪気を祓って一年の無病息災を願います。 まだまだ寒い日々が続きますが、暦の上では春の扉の一歩手前、邪気を追い払う習わしと共に、しっかりと心はプロアクティブに切り替えて、新たな季節の始まりを迎えたいものです。 日々の生活において、ここ数年は周囲に気を配って慎重に対応せざるを得ない状況が続きましたが、段々と落ち着いてきております。 ここは来たるべき春を前に、疫病退散も含めて邪気を祓い退け、「守り」一辺倒の暮らしではなく、将来に向けての「攻め」の姿勢や行動も旗幟鮮明にしていきたいところです。 「鬼は外、福は内」、鬼祓いの掛け声をしながら、ご家族や友人と楽しく勢いよく、豆まきをして、来たる一年の健康を願い、また、幸運を呼び込んでいきましょう。 地球に優しい環境対応印刷を推進する久栄社では、環境問題に取り組む必要性や、自然の尊さをお伝えしたいと考えております。このブログでは、四季折々の風情ある写真にのせて、古代中国で考案された季節の区分である七十二候をお届けする「七十二候だより」を連載しております。お忙しい日々の気分転換に、気象の動きや動植物の変化など、季節の移ろいを身近に感じていただけましたら幸いです。 \\\ ぜひこちらも合わせてご覧ください /// ▼運営会社久栄社のサイトはこちら ▼久栄社のFacebookはこちら ▼お問い合わせフォームはこちら #
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| 2023-01-30 08:01
| 大寒(だいかん)
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2023年 01月 25日
1月25日は、七十二候は71候、大寒の次候、『水沢腹堅(さわみず こおりつめる)』の始期です。 極寒のピークを迎えて、沢を流れる水さえも氷となり、厚く堅く張りつめる頃。 ![]() 『大寒』の節気は、初候は『小寒』の「芹」に対して「蕗の薹」、この次候は『小寒』の「水泉」に対して「水沢」、末候は『小寒』の「雉」に対して「鶏」と連なり、各々が『小寒』と共通するテーマを取り扱う形になっており、初候や末候では動植物が登場して、春の兆しや微かな気配に意識を向かわせてくれます。 一方、次候については、『小寒』の68候は『水泉動(しみず あたたかをふくむ)』であり、目に見えない地中で、時に春の兆候があることを表しているのに対して、今回の71候は、「晩冬」の時季にあって、6つの候の中で唯一、厳冬の風景を表し、自然界の厳しさをストレートに伝えるものとなっています。 『立春』の「氷」以来、春の「霞」、夏の「大雨」、秋の「霧」「露」「霜」「霎(こさめ)」、冬の「凍」「雪」と繋がり、「雷」や「虹」も含め、広い意味で20の候が「水」に関係しています。 その中で「晩冬」では、自然の水系というテーマにおいて、風景のコントラストが絶妙であり、七十二候全体の中で、この候は厳冬の極み、極寒や酷寒を象徴しております。 『小寒』では地中で凍っていた泉の水が少し融けて動き始めましたが、『大寒』の真ん中の候においては、厳冬のピークを告げるように、静謐な氷の世界が出現します。 地中や雪の下では春の兆しが始まっているとはいっても、地上は真冬そのもの、全国的に寒さの極致を迎え、油断ならない正念場の時季が到来したことを人々に伝えているようです。 この時季は、強い寒気が日本列島に流れ込みやすい時期であり、朝晩に氷点下に達する地域も広がって、年間の最低気温を記録することも多くなります。 日本において観測史上で最も低い最低気温はマイナス41℃、北海道旭川にて、1世紀以上前の1902年、日付は正に1月25日に観測されています。 また、一日の最高気温が一年で最も低い水準になるのも今時分であり、観測史上最低位の一日最高気温も、1936年の富士山のマイナス32℃を筆頭に、1月下旬に集中しているようです。 マイナス40℃やマイナス30℃を越えるというのは、普段の生活からは想像を絶する世界ですが、程度の差はあれ、毎年、一年で最も寒さの厳しい時季を迎えていることがわかります。 ご存知の通り、外の温度が氷点下に下がっていく中で、水が凍って氷となり、氷は水が固体状態になってできます。 水の結晶は、水素結合という原子同士の特殊な結合をベースとしておりますが、温度や圧力の領域に応じて、水素結合の配置の仕方や密度が変わってくるようです。 一般的にはあまり知られておりませんが、科学的に分析すると、氷には水素結合の状態に応じて様々な種類が存在し、これまでの研究でわかっているだけでも、氷には宇宙に存在するものも含めて17の種類あるとのことであり、今後、更に新たな多形の氷が発見される可能性もあるそうです。 氷には、様々な呼び方があり、地上にできた氷としては、「霜」や「氷柱(つらら)」が一般的ですが、樹木に付いた場合は「霧氷」や「樹氷」と呼ばれます。 沢の水など河川の水は凍ると「河氷」、湖の水は凍ると「湖氷」、海の水は凍ると「海氷」と呼ばれ、北海道のオホーツク海沿岸でこの時季から観測され始める「流氷」は「海氷」の一種です。 滝の水が凍ると「氷瀑(ひょうばく)」と呼ばれ、引力で勢いよく落下していた水が凍りついて、辺りの情景は動から静へと一転します。 自然が創り出す美しい造形の風景は、「氷瀑まつり」が開かれる北海道の層雲峡をはじめ、東北各県や関東の一部の県などで見られ、全国各地で貴重な名所となっております。 「寒中」においては、昔から僧俗を問わず「寒行」または「寒修行」が行われ、各地で武道や音曲などの「寒稽古」や「寒中水泳」が実施されてきました。 一年で最も寒いこの時季に、寒さから逃避するのではなく、寒さに積極的に向き合って、寒さに耐えて打ち克って、精神を鍛練しようという習わしです。 古典俳諧の世界からは、69候の「雉」、70候の「蕗の薹」に続いて、江戸時代を代表する三大俳人、芭蕉・蕪村・一茶を取り上げて、極限の寒さや冬の風景を表す俳句を紹介します。 「から鮭も 空也の痩も 寒の内」 松尾芭蕉 「寒月や 門なき寺の 天高し」 与謝蕪村 「見てさへや 惣身にひびく 寒の水」 小林一茶 芭蕉の句のみ解説しますと、「から鮭」は、寒中に作られ、痩せ細ったものの象徴のような風物であり、「空也」は、「空也上人」その人というより、冬の間に48日間の寒中修行で街を行脚する「空也僧」を指しているそうです。 腰に瓢箪をつけ、鉢を叩きながら、念仏や和讃を唱える「空也僧」と「から鮭(干鮭)」を結びつけて、「痩(やせ)」という表現と「か行」で始まる五・七・五で、「寒の内」の乾燥して寒気・冷気の極まった情景を見事に表しています。 真冬の極み、氷点下の世界が到来し、辺りには氷雪の風景も拡がりますが、俳句の世界では、この時季に「春隣(はるとなり)」という季語も使われるように、あと2候で「立春」を迎えます。 目には見えていなくても、すぐ隣まで来ている春を感じながら、寒さに備えつつも、寒さに負けず、しっかりと対峙して、凛とした心を持って、厳冬を乗り越えていきましょう。 一昨年以来、冬場を中心に、電力需給がひっ迫する深刻な事態が何度か起こっており、昨年は3月21日、エネルギー庁から、十年前の制定以来初めてとなる「電力ひっ迫警報」が発令されました。 昨年夏には、政府は7年ぶりに全国に節電要請を行っており、秋以降、さらなる供給力確保に向けた動きもありますが、今年の冬も、基本的状況は変わらず、厳しいひっ迫状態が継続しております。 電気料金の値上がりも深刻な問題であり、一昨年秋頃から燃料費調整額の値上げが続いておりますが、脱炭素で、再生可能エネルギーの導入が拡大する一方、化石燃料の火力発電の投資が減退していることに加えて、昨年は、ロシア・ウクライナ問題の影響が大きく、また、急激な円安進行もあり、天然ガスや石炭など、燃料価格が大幅に高騰し、燃料費調整額が一段と上昇し、再エネ賦課金の値上げも押し上げ要因となり、インフレ傾向が進む中、家計の負担が大幅に増加しており、また、企業のエネルギーコストも急激に上昇している中、大手電力各社からは4月以降の更なる値上げ申請の動きが相次いでおります。 電力需給ひっ迫と電力料金の顕著な値上がりにより、2023年を通じて、家計のやり繰りとしても、企業経営としても、難しい局面が続かざるを得ないようではあります。 とはいえ、先ずは、健康の維持が最優先ですので、身体を温めるのに大切な暖房を極端に抑える必要はないと思いますが、重ね着をして暖房温度を調整する、不要な照明は消すなど、生活に支障のない範囲での節電を心掛けましょう。 そして、この機会に、日本のエネルギー政策にも改めて一層の関心を持ち、エネルギー安全保障問題への認識も高め、電力の安定供給と電力料金の安定化、電力自由化との両立などの課題に理解を深めつつ、地球温暖化対策として脱炭素へのエネルギー転換の推進を着実に図るなど、エネルギー政策の重要テーマと全体像へと視野を広げ、大きな潮流を踏まえて、適切かつ地道に行動していきたいと思う次第です。 地球に優しい環境対応印刷を推進する久栄社では、環境問題に取り組む必要性や、自然の尊さをお伝えしたいと考えております。このブログでは、四季折々の風情ある写真にのせて、古代中国で考案された季節の区分である七十二候をお届けする「七十二候だより」を連載しております。お忙しい日々の気分転換に、気象の動きや動植物の変化など、季節の移ろいを身近に感じていただけましたら幸いです。 \\\ ぜひこちらも合わせてご覧ください /// ▼運営会社久栄社のサイトはこちら ▼久栄社のFacebookはこちら ▼お問い合わせフォームはこちら #
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| 2023-01-25 08:01
| 大寒(だいかん)
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2023年 01月 20日
1月20日は、二十四節気は『大寒』、周囲に氷や霜が張って、一年で最も寒さが厳しくなる、最後の節気を迎えましたが、『小寒』に続いて、少しずつではありますが、春の兆しを感じられる事象が見られる時季でもあります。 七十二候は70候、大寒の初候、『款冬華(ふきのはなさく・ふきのとうかおをだす)』の始期です。 蕗の薹(ふきのとう)が雪の下から顔を出す頃。 ![]() 「寒中」の後半である『大寒』の節気は、「寒中」の前半を為す『小寒』の初候「芹」、次候「水泉」、末候「雉」の後を受けて、初候は「蕗」、次候は「水沢」、末候は「鶏」となり、見事なまでに、初候は「植物&食物」、次候は「自然&水系」、末候は「生き物&鳥」とテーマが呼応し、言わば季節の風物の三大テーマが織り成す形で、来たるべき春に向けて、七十二候もクライマックスを迎えます。 『小寒』と『大寒』で共通するテーマを取り扱う中、特に初候は「芹」と「蕗」、いずれも日本古来の菜と言われる植物です。 植物シリーズとしては、立春の「東風」や「鶯」で想起される「梅」など、広く関連する脇役のテーマも含めると、実に32の候を数え上げることができます。 植物は、日本人の生活や文化と密接に結びついており、七十二候の中で最も多く登場し、主流を為すテーマと言えます。 そのうち、「蕗」のように、特定の種が主役となるものとしては、24の候が挙げられます。更にそのうち、食物としては、8の候を挙げることができます。 春こそありませんが、夏の「竹笋(たけのこ)」「麦(の実り)」「梅子(うめのみ)」、秋の「禾(のぎ)」で表される「稲(の実り)」、冬の「橘」「麦(の芽)」「芹」「蕗」です。 「款冬華」は、字の読み方として「ふきのはなさく」が一般的ですが、実際に蕗が花を咲かせるのは2~3月であり、この時季の七十二候の意味合いとしては「ふきのとうかおをだす」ということになります。 山菜の「ふき」は、『小寒』の芹と同じく、数少ない古来からの日本原産の野菜であり、日本の代表的な山菜の一つです。 漢字としては、現代では「蕗」が一番使われておりますが、それ以外にも「款冬」「苳」「菜蕗」という字も当てられています。 蕗の薹は、蕗(ふき)の花芽のことで、雪が降り積もるこの時季、黄色がかった蕾(つぼみ)を出します。 凍てついた地面の下で、春に向けての植物としての支度は着々と進んでいるようです。 呼び名の「ふき」は、冬に黄色に近い花をつけるため、「冬黄(ふゆき)」が短縮されたことに由来するそうで、漢字の方も、幾つか「冬」が入っているところ、真冬に春の訪れを感じさせる象徴の一つと言えそうです。 蕗は、縄文時代には既に食べられていたようで、奈良時代末期の万葉の時代には市場での取扱いも行われ、平安時代には栽培が始まっております。 蕗の薹も蕗の葉柄も、古くから食用に供され、生命力を身体に取り込むことで若返りに効くとされ、薬用にも利用されてきました。 実際のところ、強い抗酸化作用があって、新陳代謝を活発にして細胞を若返らせますし、カリウム・ビタミン群・食物繊維など様々な栄養を含んでいて、アンチエイジングの効能やデトックス効果を有しており、抗アレルギー成分も含むことから、花粉症の症状を緩和する働きもあるようです。 蕗の薹は、天ぷらにしたり、蕗の薹味噌や煮物・味噌汁に調理したりして戴きますが、胃腸機能の活性化をはじめ、様々な効能があります。 「春の皿には苦みを盛れ」と言われるように、強い香りとほろ苦さに、春の息吹き、春の訪れを五感で感じつつ、体の各部が目覚めるようです。 もう少し先の時季のことではありますが、冬眠から目覚めた熊が最初に食べるのは、蕗の薹であることは有名な話です。 野生種の蕗は、山の沢や河川の土手など、水が豊富であまり風が吹かないところで、自生しています。 関東北部から東北・北海道にかけては、2mほどに伸びる巨大な蕗の亜種、「秋田蕗」が自生しており、北海道・足寄町の螺湾川(らわんがわ)に沿って自生する「ラワンブキ」の高さは3m以上にも達し、日本で一番大きな蕗として知られています。 現在各地で栽培されているものの多くは「愛知早生(あいちわせ)」という品種であり、尾張蕗とも呼ばれ、市場の6割くらいを占めているようです。 他に、水蕗(みずふき)・京蕗(きょうふき)という品種もあり、また、山野に自生する山蕗(やまぶき)もあれば、栽培されている秋田蕗もあるようです。 俳句では、「蕗」は夏の季語、「蕗の薹」は春の季語であり、必ずしも今の時季ではありませんが、江戸時代の三大俳人、芭蕉・蕪村・一茶が詠んだ句がありましたので、紹介させていただきます。 「蕗の薹」や「蕗の芽」を詠んだ句の方は、冬の風景の中で、蕗の蕾や花芽を見つけて、春の息吹や命の徴を身近に感じた心境が伝わってきます。 「蕗の芽を 降りかくしけり 春の雪」 松尾芭蕉 「莟(つぼみ)とは 汝(なれ)も知らずよ 蕗の薹」 与謝蕪村 「草の戸に 春は来にけり 蕗の薹」 小林一茶 夏の「蕗」については、一茶の「蕗の葉」を詠んだ次の句は、とても親しみやすく分かりやすい俳句で、今は遠い先の夏の情景に少し想いを馳せる感じで鑑賞できます。 「蕗の葉に 飛んでひっくり 蛙かな」 小林一茶 「蕗の葉に ぽんと穴あく 暑さかな」 小林一茶 七十二候も終盤を迎えますが、昔の人は、凍てつく冬の中で感性を研ぎ澄ませ、微かな春の気配を一つ一つ感じ取りながら、春に向けて一歩一歩、前向きなマインドセットと身体の活性化を着実に行って、厳しい時季を乗りきっていたように感じる次第です。 芹をはじめとする春の七草(小寒の初候)に続いて、『大寒』の蕗、「春の使者」とも言われる日本古来の山菜を有り難くいただいて、その独特の香りとほろ苦さを味わいながら、今風に言えば、マインドフルネスを意識して呼吸と姿勢を整え、やがて訪れる春に向けて、心身の働きを活発にして、今現在として出来ることに集中していきましょう。 全体としては、健康的な適切な食事・適度の運動・充分な睡眠を心掛けながら、例えば、夜は早めに切り上げて、自宅でリラックスする時間を増やすなどして、メリハリの効いた生活リズムを意識して、暮らしに緩急をつけながら、春の到来を待ちつつ、今暫くの冬の時季をしっかりと充実した毎日にしていきたいものです。 地球に優しい環境対応印刷を推進する久栄社では、環境問題に取り組む必要性や、自然の尊さをお伝えしたいと考えております。このブログでは、四季折々の風情ある写真にのせて、古代中国で考案された季節の区分である七十二候をお届けする「七十二候だより」を連載しております。お忙しい日々の気分転換に、気象の動きや動植物の変化など、季節の移ろいを身近に感じていただけましたら幸いです。 \\\ ぜひこちらも合わせてご覧ください /// ▼運営会社久栄社のサイトはこちら ▼久栄社のFacebookはこちら ▼お問い合わせフォームはこちら #
by 72microseasons
| 2023-01-20 08:01
| 大寒(だいかん)
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2023年 01月 15日
1月15日は、七十二候では69候、小寒の末候、『雉始雊(きじ はじめてなく)』の始期です。 雉の雄が甲高く鳴き始め、雌への求愛の季節を迎える頃。 ![]() 『小寒』の節気の七十二候は、一年で一番寒い「寒中」の前半にありながら、いずれも、微かな春の気配、春への胎動を取り扱っております。 初候は、旬を迎える「芹」の生育、次候は、氷から溶けて動き始める「泉」の水と続きまして、この末候は、日本古来の鳥の繁殖に向けての活動がテーマです。 二十四節気・七十二候も、残り一節気・三候を残すのみですが、鳥シリーズとしては、『立春』の「黄鶯(うぐいす)」から始まり、「雀」「玄鳥(つばめ)」「鴻雁(こうがん)」と春に4種、夏には「鷹」の1種、秋に「鶺鴒(せきれい)」と再びの「玄鳥」「鴻雁」で3種と、日本人に馴染みの深い鳥や渡り鳥が登場してきましたが、今回の「雉」は特に鳴き声で存在感を示し、最後の「鶏」へと繋ぎます。 冬は「晩冬」にのみ2種であり、年間では8種の鳥が10の候において季節の移ろいを告げる構成になっております。 日本には「花鳥風月」という言葉があるように、鳥は生き物の中で日本の美しい自然の風景を代表する風物であることを改めて感じます。 この時季、まだまだ寒さの厳しい山間部に、雄の雉の声がこだまします。 雉の求愛の特徴としては、まず、ケーンケーンという甲高い声で鳴いて、縄張りを宣言しながら、雌へのアピールを行うことです。 そして、高らかに鳴いた後、「母衣打ち(ほろうち)」と呼ばれる動作で、両翼を広げて胴体に打ちつけるように激しく振り、ドドドドドッと羽音を鳴らします。 「母衣(ほろ)」とは、武士が古くから使う由緒ある道具の一つで、鎧の背などに装着して、流れ矢や石を防御した幅広の布状の武具であり、勇ましい羽音が山あいに響きます。 雉の雄は、翼と尾羽は茶褐色ですが、胴体は美しい緑色に覆われ、背には濃い茶色に褐色の班、頭部は青緑で目の周りには赤い肉腫があり、美しく華やかな出立ちで目立ちます。 他方、雌の方は、全体として茶褐色と地味で、鳴き声もチョッチョッと割とかわいい声です。大きさも、雄が長い尾も含めて80cm程度、雌は60cm程度と差があります。 雉の雄は、独特の鳴き声や母衣打ちに加えて、ほかの鳥の雌雄にも見られるように、その美麗な姿でも雌を惹きつけようとします。 雉は、飛ぶことはあまり得意でないようですが、健脚でありまして、「雉」という漢字が「矢」と「隹」(=とりの意味)から出来ているように、地上を矢のような速さで走り抜けることができる鳥であり、一説には時速30キロメートル台も記録したとも言われております。 また、雉の足裏には振動を敏感に察知する感覚細胞というものがあり、人体で知覚出来ないような地震の初期微動を知覚できるため、人間より数秒早く地震を察知することができるとも言われております。 また、雄の雉は力が強く、身体に巻き付いた蛇を断ち切ってしまうほどとも言われており、その勇猛果敢さ、闘争能力を買われて『桃太郎』の話にも抜擢されたということのようです。 象徴的なのは、防衛省の情報本部のシンボルマークやエンブレムには「雉子(きぎす)=雉の古語」が採用され、雉の意匠が使われていることです。 職員の一体感及び団結心を養う目的で、職員から募集したデザインの中から決めたようですが、選定理由については、以下の通りとされております。 「童話の『桃太郎』に出てくる雉は、空を高速で飛行する特性を生かして、情報の収集を任務としていました。 また、人体が感じない微弱な振動を感じることができると言われており、世界の情勢の変化を敏感に察知しなければならない、情報本部の任務と相通じるところからシンボルにふさわしいと考えております。」 雉は、古来から、『万葉集』などの歌にも詠まれ、夫婦愛や家族愛の強い鳥として、つま(妻と夫)を思い、子を思う気持ちを込めた歌が伝えられており、その中には大伴家持の次の歌もあります。 「春の野に あさる雉の 妻恋に 己があたりを 人に知れつつ」 大伴家持 「雉は、春の野原で餌を探しまわる時でさえ、妻が恋しいと鳴くので、狩りをする人に己の居場所を知られてしまうよ」ということで、自身の姿を重ねつつ、雉の身を案じて憐れに思う心を詠んでおりますが、この歌がもとになって、雉は「妻恋鳥」と呼ばれることもあります。歌の背景にあるように、雉は古くから狩りの対象となり、平安時代の文献では鶏より古い時代から食肉として登場し、鳴き声を導として矢を放たれておりました。 雉は、諺や慣用句にも、いろいろと登場しますが、「雉も鳴かずば撃たれまい」はとてもポピュラーで、誰でも知っている諺の一つです。 また、草むらに隠れたつもりの雉の姿を表した「雉の草隠れ」から、「頭隠して尻隠さず」という諺も由来しております。 夫婦の絆が強い雉ですが、母性愛の強さでも知られ、「焼け野の雉、夜の鶴」という表現があります。 雉が巣のある野が焼かれた際に自分の命にかえても羽で子や卵を救おうとする姿、鶴が寒い夜に自分の羽で子を温める姿から、親が子を想う情の深いことの喩えとして使われます。 雉は、日本の国鳥とされていますが、これは、戦後間もない頃、日本鳥学会の多数決によって決まったようです。古来より歌や俳句にも詠まれ、諺にも引用され、『桃太郎』の話にも登場する、日本固有の鳥であり、本州をはじめ、北海道等を除く広いエリアで見られるなど、国民にとって親しみ深い鳥であることが大きいようです。 古典俳諧の世界から、江戸時代の三大俳人、芭蕉・蕪村・一茶の詠んだ雉の句を、ご紹介します。 やはり、いずれも雉の鳴き声を聴いて、各々が感じた情景、出会った風景を表した俳句のようです。想像力を豊かにして鑑賞したいものです。 「父母の しきりに恋ひし 雉子の声」 松尾芭蕉 「柴刈に 砦を出るや 雉の聲」 与謝蕪村 「雉子鳴くや 関八州を 一呑に」 小林一茶 現在は、狩猟や開発の影響で身近には見られなくなっており、毎年、愛鳥週間や狩猟期間前などの時期、大量に放鳥も行われてはおりますが、残念ながら、足環のついた放鳥雉が捕獲される事例は少なく、充分な生息環境が整えられていない中、殆どが他の動物に捕食されてしまっているようです。 日本の雉(キジ)は、胴体の緑色などに特徴があり、ユーラシア大陸に広く分布し、北海道にも移入されている、褐色主体のコウライキジとは異なる種です。 将来的には固有種の絶滅も危惧されていることも踏まえ、雉が安心して生育できる環境を地道に整えて、日本の国鳥と人との末永い共存共栄の世界を守っていきたいものです。 「寒中」の寒さ厳しいこの時季、先ずは、雉の家族愛や夫婦の絆の強さを見習って、家族を慮ると共に周囲の人も含めて思いやりを持って接し、新しい年の抱負を形にして掲げ、雉のたくましさも参考にしながら、力強く前向きな挑戦をスタートできるように心掛けていきましょう。 世の中の方は、この一年で随分と様相が変わりつつではありますが、様々な観点から先行きの見通しが難しい状況が続いております。 ぜひ、雉の敏感さや情報収集能力にあやかり、冷静かつ適切に今後の情勢を見極めて、しっかりと不透明な時局を乗り越えて、春の時節へと繋げていきましょう。 地球に優しい環境対応印刷を推進する久栄社では、環境問題に取り組む必要性や、自然の尊さをお伝えしたいと考えております。このブログでは、四季折々の風情ある写真にのせて、古代中国で考案された季節の区分である七十二候をお届けする「七十二候だより」を連載しております。お忙しい日々の気分転換に、気象の動きや動植物の変化など、季節の移ろいを身近に感じていただけましたら幸いです。 \\\ ぜひこちらも合わせてご覧ください /// ▼運営会社久栄社のサイトはこちら ▼久栄社のFacebookはこちら ▼お問い合わせフォームはこちら #
by 72microseasons
| 2023-01-15 08:01
| 小寒(しょうかん)
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